翔にサッカー部入りを勧めたり、遊びに誘ったり、翔と一緒に出るためにクラス対抗リレーに立候補したり、誕生日を派手にお祝いしたり、手を繋いだり抱きしめ合ったり。ドラマになるような「学園生活」ってこうだろうなと思えるような展開が、ときに「こんなに上手くいくか?」と思わせながらも勢いの説得力で進んでいきます。
そんな感じで、「深い部分はないがページをめくらせる力はある」という作品性が細部まで徹底されていれば評価3点程度はあるかなと思っていたのですが、所々引っかかる部分がありまして、それが評価を2点に下げた理由です。
一つは、ヒーローとヒロインの(相対的)魅力のなさです。
ヒーローである成瀬翔は(始業式の日に母を亡くしたとはいえ)基本的にウジウジしているだけで、自らの力で周囲を助けよう、誰かの役に立とうと行動することがありません。
一応、ヒロインである菜穂に好かれているという設定があるので、翔が元気になると菜穂が喜ぶのですが、周囲が翔を助けるためだけにがむしゃらになっている様子ばかりを見せつけられると、「なんだか翔にとって都合の良い世界だなぁ」と思ってしまいます。
周囲が自分の機嫌を最優先してくれて、そういった待遇の中で自分が上機嫌になると自分と両想いのヒロインが喜ぶという、わけのわからないご都合主義世界観が構築されてしまっているんですよね。
こんなことなら、翔なんか自殺させておいて菜穂は(翔を助けようと奮闘するくらい心がイケメンな)須和とくっついた方が幸せなんじゃないかという気持ちが頭をよぎってしまいます。
そうなると、「翔を助けるんだ、彼に助かって欲しいんだ」という物語の軸となる感情に共感することがやや難しくなってしまいます。
一方、ヒロインの菜穂も極めて受け身であり、自分一人では手紙の内容を淡々と実行していく以外の行動を起こそうとしません。
手紙の指示が直感的には翔の幸せに直結しなさそうなことだったとき「本当に手紙の通りでいいのか?」と悩み始めたのは須和でしたし、「辛いことがあったら正直に言ってくれよ、友達だろ」と、核心的な部分について翔の心を解きほぐそうとしたのも須和です。
何が本当に翔のためになるのか、自分たちのやっていることは本当に正しいのか。その問いを自分に投げかけ、自分の頭で考えて行動する須和がむしろ(男性ですが)ヒロインのような役割を果たしています。
菜穂はいつも、そんな須和やアズ、貴子にお膳立てしてもらって翔との距離を詰めるだけで、「いいやつだな」と思えるのがヒーローとヒロイン以外の3人という状況が生まれてしまっているのです。
これでは素直に二人を応援しようとはならないでしょう。
ヒーローとヒロインが応援できないとなってしまっては、やはり漫画としての評価を下げざるを得ません。
二つ目は最終盤の展開です。
結局、翔は「みんなとの想い出が大切で、みんなと明日も過ごしたいから」自殺を思いとどまるのですが、ただそれだけなんですよね。
これって読者全員が予想していたというか、そりゃあそうなるだろうというオチ。
マクロ的にこの物語を見ると、翔の自殺を止めたい→翔を楽しませよう→楽しませる→自殺防いだ、というだけになっていて、起伏なくあまりにもあっさり終わってしまった印象があります。
翔が自殺しそう、という場面になっても、どうせ思いとどまるだろうという予想があったのでそこまではドキドキしませんでした。
もう一つ二つ伏線を引いて、「もしかしたら」と思わせたり、「自殺はしなかった、でも...」という展開があれば盛り上がりが持続したのではないでしょうか。
やはりクライマックスが盛り上がらないと「良い」作品の基準である評価3点をつけるのは躊躇ってしまいます。
全体の感想としては概ね上の感じなのですが、一つだけ気に入った台詞を紹介したいと思います。
少女漫画の定番として「顔は可愛いけど性格の悪い女子がヒーローを狙いに来る」という展開あり、本作品でも序盤で展開されます。
そんな当て馬を、ヒーローがどう評するかというのはなかなか難しいところで、否定的に言いつつも、ヒーローの品位を汚さないような台詞回しが必要になります。
そして、本作が採用した台詞。「顔は好き」。
これが私には斬新なものに感じられました。
「顔は可愛いけど性格の悪い当て馬」を評して「顔『は』好き」。これだけでヒーローが何を言いたいか分かりますよね。
単純で、ある意味正面突破ながら、これまで試みられなかった、灯台下暗し的な革新性に驚きました。
高野先生のセンスには脱帽です。
結論
評価は2点ですが、ぐいぐい読み進められるようなリーダビリティはあります。
全6巻ですし、軽く読んで即物的な感動を得たい場合はむしろオススメですね。
ただ、人生に影響を与えるようなメモリアルな作品とはなり得ないでしょう。
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